フランスでは誰にも身元を知られずに病院で出産できる匿名出産が認められている。子の出自を知る権利に関しても法律があり、情報の聞き取り、保管を公的機関「出自情報のアクセスに関する国家諮問委員会(CNAOP(クナオプ))」が担う。法制定に尽力し、CNAOPの初代事務局長も務めたマリー・クリスティーヌ・ル・ブシコ元最高裁判事に、制度の歴史的な背景や意義を聞いた。
- 母は子を残し病院を去った 「安全な選択肢」めざすフランス匿名出産
16世紀にはすでに、匿名で赤ちゃんを預け入れられる「ベビーボックス」のようなものが全国の教会や修道院にありました。建物に回転式の扉がついており、赤ちゃんを預けると反対側にいる教会の人が受け取ってくれる仕組みです。ただ赤ちゃんの死亡率は高く、預け入れられた子は近くの農家の人が育てて、働き手にするような状況がありました。
そのなかで17世紀、パリにあるカトリック系のサンバンサン・ド・ポール病院とオテル・デュー病院が、女性が路上や危険な場所で出産することがないようにと、身元を聞かずに受け入れることを始めました。
そして1789年にフランス革命が起き、共和国としての法律が新しくつくられました。その際に、国が守るべき価値として、女性の秘密を守りながら安全に出産できる匿名出産が法律に組み込まれ、公的に認められるようになりました。1793年のことです。
――なぜ女性の秘密を守ることが法に組み込まれたのでしょうか。
「光の世紀」だったからです…